第4回 音の隠し味 (2003年7月4日)
ぼくはコンサートホール以外で演奏することも多いのだが、どんな場面でも、ベストの音づくりを目指している。
以前、ある小学校の体育館で演奏することがあった。ところが、その体育館は天井が非常に高くて、音が響きすぎ、リズミカルな演奏がはっきり聴き取れない。音楽鑑賞に適した環境とはとても思えなかった。そこで、残響を減らすために、体育館中にマットを敷き詰めてみた。すると、響きが驚くほど減少し、コンサートホールよりも理想的な音場が生まれた。
別の小学校では、冷房が入った多目的教室が会場となった。演奏を始めようとしたところ、空調の音が耳障りで邪魔になる。子どもたちに頼んで、冷房を止めて窓を開けることにした。ところが、窓を開けると、今度は国道を走る自動車の音が気になってしまう。仕方なく、再度窓を閉め切って、冷房付きで演奏することにしたのだが、この時点では、ぼくも子どもたちも、微細な音を気にする感覚を共有していたので、その後の演奏会はうまく進んだ。
調律師の上野泰永さんは、ピアノを支える脚から床に伝わる振動の音が気になったという。試行錯誤の末、ピアノを宙づりに浮かせたいと考えた。ピアノの脚をやじろべえのように点で支えてみたところ、150万円のピアノが200万円のように聴こえたから不思議だ。
逆に、耳障りのような音や変な音を、曲の中にわざと加えることもある。これは、うどんに薬味を加えたり、スイカに塩をふると余計に甘く感じられることに似ている。こうした音の隠し味で、何の変哲もない音が輝き始め、音楽がイキイキし始めるのだ。
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第6回 素敵な音楽の場 (2003年8月29日)
全国各地に演奏に行くと、時に素敵な場に巡り会う。
JR胡麻駅(京都府日吉町)の待合室で行ったコンサートは、忘れられない。待合室からガラス越しにホームの電車が見えるので、演奏しながら電車のお客さんに手を振ると、お客さんもこちらに向かって手を振ってきたりして、大いに盛り上がった。
小学校の校舎を改装した京都芸術センター(京都市中京区)は、雰囲気がいい。ぼくが毎年参加している「京都クリエーターズミーティング」では、海外の一流アーティストと作品づくりをしているが、放課後に教室で遊んでいる気がして、発想も広がる。
調律師の上野泰永さんが調律の実験のために作ってしまった滋賀県守山市のホール「スティマザール」は、ピアノ好きにはたまらない。最高級のピアノを60人程度の少人数で楽しめるのだ。上野さんの家では、人間よりもピアノが優遇されていて、ホール横にある4人暮らしの家より、1台のピアノが置かれているホールのほうが大きくて豪華である。
こうした場所の魅力を生み出すのは、いたずら好きな仕掛人だ。彼(彼女)らは、空き地を遊び場に変える子どものような発想力がある。 ちょっとしたアイデアで、どこでも面白いコンサート会場になり得るものだ。
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スティムフューチァー(Stimmfuture)について
Stimmfutureならびに上野氏との出会いは、私自身の演奏家としての考え方を180度変えるものでした。イメージする、力を抜く、音をよく聴く、この三原則を実行するためには、ピアノそのものが豊かな音色であること、また演奏者の微妙な心の動きにも反応のよい楽器であることが必要です。上野氏の作り出したStimmfutureによって我が家のピアノは魔法にかけられたように自由自在、色鮮やかに変化する楽器に生まれ変わりました。ピアノとの対話が出来るようになり、音作りを逆にピアノから教えてもらうようになりました。今思うと、この二年間の彼女達の一番厳しい先生は、実は私ではなく、我が家のピアノだったように思います。
調律について
今から7年くらい前、STIMMER SAALで弾かせてもらったBOSTONPianoの音色が忘れられずに私の心にありました。期せずして主人の赴任先が米のBostonに決まり、これはもう運命かもしれないと思い、BostonPianoを思い切って購入することにしました。まだまだピアノをはじめて何年も経っていない子供達のために、こちらでは研究員の身分で贅沢は出来ないはずの我が家でしたが、良い楽器で勉強しなくてはいけないと日々感じていた私に、迷いはありませんでした。そしてその良い楽器を手にするには、上野さんの調律が切り離せないものでした。そのため無理を言って年に一度、地球の裏側まで来て頂いているというわけです。 楽しい楽器を手にすると、おのずと楽しい音楽を奏でたくなるものです。表情豊かなピアノに出会うと、演奏者のイメージも膨らんできます。 上野さんのピアノはそういう楽器です。調律者が精魂こめて魂を吹き込んだ楽器を、私たちも心を込めて演奏しようと努力します。優希11才、杏佳8才、はじまったばかりでまだ先は見えません。しかしこの二年間の彼女たちの成果はたいへん大きいものでした。
南 絵里香
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松本調律師のコメント
:前略 先日は貴重なお仕事に同行させていただきまして、ありがとうございました。
初めてあのベーゼンドルファーインペリアルを倉庫で弾いたとき「え、インペリアルなのにこの程度しか鳴らないの?」と正直失望してしまいました。最高音1Oct.は詰まったように響きませんし、中音域にも本来あるべき魅力が感じられませんでした。
ところが、上野さんの熟考の後、ためらいの無い整音作業が施され、スティムフューチャー装着後に再度弾いた時には驚愕いたしました。音の粒がピアノの上に浮かんで空間に広がっていき、音に甘い味が加わったような感じを受けました。伸びなかった音も、タッチの強弱を明確に捕らえられるようになり、一音一音に個性が生まれ、「弾きたくなるピアノ」に変わったのでした。
ピアノの音はこんなにも変わるものだということを目の当たりにしました。
演奏者それぞれ求める音には違いがあるものだと思います。私は調律師として本当に未熟ですが、上野さんの作業に同行させていただき、改めてピアノの奥深い魅力を知ることができました。
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福田 真顕(群馬県)のお客様ですが、喜びの声を頂ました。2011年ピティナピアノコンペティションのグランミューズ部門A1カテゴリー(グランミューズ部門で一番難しい)の全国大会で第1位をいただいたと報告が有りました。
音色の変化を楽しめなかったヤマハC3がヤマハS400ぽく変わって、練習がイヤイヤでなくなり、音作りが面白く感じています。
ピティナの審査員の講評に「思わず聴き入ってしまうほど良い音作りしていますね」「響きにニュアンスが感じられます」「音のバリ エーションが豊富」などと書いてもらえました。
市橋杏子(桐朋学園大)
2011年 霧島音楽祭賞を受賞した12人が行ったファイナルの若い音楽家たちのコンサートは圧巻だった。とりわけ、ドビュッシーの「喜びの島」に繊細で多彩な音色の音楽性を聴かせたピアノの市橋杏子
神谷 悠生 第64回 全日本学生音楽コンクール (高1)で横浜市民賞
南 杏佳 第62回 全日本学生音楽コンクール (小5)3位